生成りの紙面に濃緑の縦帯と金の細線をあしらったカバー画像。上に「大石浩之のお寺ノート」、中央に大きな見出しで「墓石の地震対策|転倒率52%と磐田の想定震度7」、下段に「ATAWI TEMPLE|磐田市の寺院データベース」と日付「2026.08.28」が並ぶ。
記事内容をもとに生成したイメージです。実在の場所・人物を撮影したものではありません。

結論

実家の墓がかなり古いのですが、地震で倒れないか気になっています。何をしておけばいいでしょうか

棹石と台座の継ぎ目を写真に撮ってください。2008年の岩手・宮城内陸地震で東北大学の石渡明氏らが墓地90か所を調べた結果、震央から約10キロの墓地では102基中53基が倒れ、転倒率52%でした。同じ調査は転倒防止施工の効果を「転倒率を10%程度下げる」と見積もっています。施工の中身と管理者は今日確認できます。墓地規則は寺ごとに違うため、最後は菩提寺にご確認を。

墓石の転倒率52%は、地震のあとに1基ずつ数えられた実測値

東北大学東北アジア研究センターの石渡明氏らは、2008年6月14日の岩手・宮城内陸地震(マグニチュード7.2)のあと、岩手・宮城・秋田の墓地90か所を回っている。墓石が何基のうち何基倒れたかを、1か所ずつ数えるためだ。結果は論文「岩手・宮城内陸地震(2008)の墓石転倒率分布とその地質学的考察」(『東北アジア研究』第13号1〜16ページ、2009年3月18日発行)にまとまっている。転倒率がいちばん高かったのは岩手県奥州市の大原公葬墓地で、73基のうち39基が倒れて53%。次が同市胆沢町の萩森霊園で、102基のうち53基が倒れて52%だった。どちらも震央から約10キロの場所である。

数え方も論文に書いてある。対象にしたのは、いちばん上に載る棹石(さおいし)の断面が正方形に近く、縦長のものだけ。横長のもの、平板状のもの、五輪塔などは数から外している。棹石の底辺が30〜40センチ、高さが60〜90センチというのが典型的な寸法だという。「転倒」と数えたのは棹石が完全に落ちた場合だけである。ずれたり回ったりしても、台の上に残っていれば「不転倒」とした。日本のどこにでもある和型の墓石の、いちばん上の石が地面に落ちたかどうか。それだけを数えた割合が52%である。

調査は地震の10日後、2008年6月24日から7月5日までのうち5日間に行われた。石渡氏らは、すでに直されている墓石も多かったと書いている。傷や周りの痕跡から判断がつくものを転倒に入れ、迷うものは不転倒に寄せた。そのぶん転倒率はやや低めに出ている可能性がある、と自分で断ってもいる。私はこの断り書きを読んで、この52%は信用していい数字だと考えた。

もう一つ、この調査には震度階級だけでは説明できない事実がある。論文には「同じ震度6強でも、岩手県側と宮城県側では墓石転倒率に大きな違いがあることがはっきりした.」と書かれている。宮城県側の栗原市一迫の周辺では、4か所の墓地で転倒率が0〜18%にとどまった。同じ震度でも、墓地によって倒れ方がまるで違う。

転倒防止の施工は効く。ただし下がるのは10%分

墓石の転倒防止施工について、石渡氏らの論文には具体的な記述がある。当時すでに、墓石や灯籠は直径6〜10ミリの鉄製ボルトを墓石と台座の間に埋め込み、セメントや接着剤で固める施工が多かったという。ところが転倒率が10%を超えた墓地では、その転倒防止施工をした墓石や灯籠も多く倒れていた。論文は施工の効果を「転倒率を10%程度下げる」と見積もっている。

私は数字を見ると、必ず1件あたりに割り戻す癖がついている。不動産の仕事で、総額のままでは家族が判断できないからだ。10%分というのは、100基ある墓地で10基が助かるという意味である。転倒率50%になる揺れが来た墓地なら、全基に施工がしてあっても40基は倒れる計算になる。自分の家の墓が助かる10基のほうに入るかどうかは、事前には分からない。耐震施工は、倒れない保証ではなく、倒れる確率をいくらか下げる工事である。そう理解しておいたほうが、見積書の読み方を間違えない。

誤解のないように補っておく。この10%という見積もりは、著者が「強震動の分布を調べる道具として墓石は使えるか」という立場から書いたものである。論文は「転倒防止施工が普及しても墓石の転倒率調査が無意味になるということはない.」と続けている。施工を否定するために書かれた文ではない。

私が迷っているのはここから先だ。では耐震施工をすべきなのか、いくらまでかけるのが妥当なのか。私は一次情報を探したが、公的な施工基準を見つけられなかった。一般社団法人日本石材産業協会が公表している「墓石工事契約等ガイドライン」(2020年6月施行・2023年11月1日改訂)は全24項目ある。ただし中身は契約書・見積書・請求・苦情処理といった取引のルールで、耐震に関する項目は入っていない。耐震ボンドや芯棒の説明は石材店のウェブサイトにいくらでもあるが、公的な数値基準として確認できたものは、2026年8月時点で私には見つけられなかった。だから私は「耐震施工をしてください」とは書けない。書けるのは「どんな施工がしてあるか石材店に聞いてください」までである。

磐田市の想定は震度7。それでも被害想定に墓石の欄は無い

静岡県磐田市の南海トラフ巨大地震の想定最大震度は7である。静岡県の第4次地震被害想定(第一次報告・2013年6月27日公表)は、レベル2の陸側ケースを示している。磐田市の総面積162.6平方キロメートルのうち137.5平方キロメートル、市域の84.6%が震度7になるという。内閣府の中央防災会議が2025年3月31日に公表した南海トラフ巨大地震の新しい想定でも、磐田市の最大震度は基本・陸側・東側・西側のすべてのケースで7と示されている。

そのうえで、行政の被害想定に墓石という項目は無い。静岡県の第4次地震被害想定は、被害を15の区分に分けて算定している。建物被害、火災被害、屋外転倒・落下物、人的被害、ライフライン被害、交通施設被害、生活支障——。このうち屋外の転倒物として数え上げられているのは、ブロック塀等の転倒、自動販売機の転倒、屋外落下物の3つである。墓石はここに入っていない。県が公表している本編・報告書・参考資料を通して探しても、墓石・墓地・石碑・灯籠のいずれの語も見つからなかった(2026年8月確認)。

磐田市の地域防災計画(令和7年度改訂)も同じだった。「墓石」という語は全8編を通して出てこない。いちばん近いのは震災対策編の「17 文化財等の耐震対策」で、「彫像、石碑その他これらに類する文化的な物件」の所有者・管理者に耐震性の向上と安全性の確保に努めるよう求めている。ただしこれは文化財として扱われる物件についての条文であって、一般の家の墓石までは届かない。国が2025年に公表した新しい被害想定にも、私が確認した範囲では墓石の記述は無かった。

つまり墓石の転倒は、国にも県にも市にも欄が無い。公的な被害統計の空白地帯である。理由の見当はつく。ブロック塀は通学路で人が亡くなったから数えるようになった。墓石は敷地の奥にあり、地震の瞬間にそこへ人が立っていることは少ない。人的被害を減らすための想定としては、順番として筋が通っている。私はそこに文句を言いたいわけではない。ただ、数えられていないということは、倒れたあとに誰がいくら払って直すのかも、どこにも見積もられていないということである。その請求書は、そのまま墓地使用者と、その相続人のところへ来る。

磐田市内には、ATAWI TEMPLEが収録しているだけで118の寺院がある。見付地区の国分寺(新義真言宗)のように、古くからの境内に墓地を抱えた寺は少なくない。寺院墓地では、境内の通路や石段は寺、個々の墓石は使用者、という切り分けになっていることが多い。ただし境目がどこに引かれているかは、その墓地の規則で決まる。宗派でも寺でも違う。私はここを一般論で断定しない。

家の売却と相続の段取りに、墓の写真を1回だけ挟む

実家じまいの段取りの中で、墓の点検はいちばん後回しになる。私はこう考える。それ自体は自然だ。人が住まなくなった家のほうが先に傷むし、期限が付いているのは売却や相続登記のほうだからである。ただし墓については、順番を1つだけ前に出す価値がある。撮るだけなら5分で終わる。

撮るのは3か所でいい。棹石の正面、棹石と台座の継ぎ目、墓誌である。継ぎ目には、ボルトや接着剤の跡が見えることがある。石の合わせ目に隙間が開いていないか、上の石が台座からずれていないか。写真に残っていれば、後で見比べられる。墓誌を撮るのは、彫られた名前の数が遺骨の体数を確かめる手がかりになるからだ。

なぜ倒れる前に撮るのか。倒れてからでは「もともとどう建っていたか」を思い出せる人が家族にいなくなるからである。石材店に建て直しを頼むときも、写真が1枚あるかないかで話が速い。名義や管理料の状況を確かめる作業も、同じ1回の墓参りにまとめられる。墓の名義を放置するとどこで詰まるかは墓の名義変更をしないとどうなる|2026年の登記義務化と同じ壁に書いた。

費用の見当については、墓じまいの側から出ている数字が参考になる。撤去の解体費が高いという理由で墓じまいを取りやめた人がどれくらいいるかは墓じまいをやめた理由は費用|解体費が高い22.2%にまとめてある。倒れた墓石を建て直すのも、墓じまいで撤去するのも、動かすのは同じ石である。クレーンや重機が墓地の中まで入れるか、通路の幅が足りるか。金額を分けるのはそこだ。私は家の査定でも、値段の話をする前に道路の幅と動線を見る。墓地で見るところも、結局は同じである。

墓じまい・改葬まで含めた全体の流れは墓じまい・改葬の基礎資料にある。倒れた墓石を建て直すか、この機会に移すか、そのまま置くか。どれを選ぶにしても、写真と名義と管理者の3点は先に要る。

今日できる確認は3つ。2つは倒れる前にしかできない

墓石の地震対策として今日できることを3つに絞る。どれも費用はかからないし、石材店を呼ぶ必要もない。ただし最初の2つは、倒れる前にしかできない。

  1. 棹石と台座の継ぎ目を写真に撮る。正面・側面・継ぎ目・墓誌の4枚。スマートフォンで撮れば日付が残る。家族の誰かと共有しておけば、連絡がついた人がすぐ出せる。
  2. 墓地の管理者を1行で書き出す。寺院墓地なら寺、市営霊園なら市の窓口、地区の共同墓地なら管理組合。倒れたときに最初に連絡する先である。名前が出てこないなら、それ自体が先に片づけるべき宿題になる。
  3. 建てたときの石材店に、施工の中身を聞く。棹石が接着だけで載っているのか、芯棒やボルトが入っているのか。分からなければ「分からない」と書き出しておく。それがそのまま次に聞く質問になる。

聞く相手は分けておいたほうが早い。施工の中身と修理の見積もりは石材店へ。墓地の中の通路や擁壁を誰が直すのかは墓地の管理者へ。名義と相続の個別判断は司法書士へ。お墓まわりの記事はお墓の記事一覧にまとめてある。

今日、結論を出す必要は無い。耐震工事も、墓を移すかどうかも、今日決めなくていい。写真が4枚あって、管理者の名前が1行書いてある。それだけで、半年後にどの選択をするにしても効いてくる。決めるための材料が1つ増えた状態を、今日の成果とすればいい。

最後に繰り返す。この記事の転倒率は、2008年の岩手・宮城内陸地震で東北の墓地90か所を数えた結果であって、静岡県の墓地で同じ割合になるという意味ではない。地盤も、石の形も、施工の年代も違う。修理と撤去の見積もりは石材店へ、相続と名義の個別判断は司法書士へお願いしたい。そして墓地のどこまでを寺が管理し、どこからが使用者の負担になるかは寺ごとに違う。最後は菩提寺に確認していただきたい。

FAQ

よくある確認

地震で墓石はどのくらい倒れるものですか。

2008年の岩手・宮城内陸地震で東北大学東北アジア研究センターの石渡明氏らが東北の墓地90か所を調べた結果、転倒率が最も高い墓地で73基中39基(53%)、次いで102基中53基(52%)でした。いずれも震央から約10キロです。同じ震度6強でも岩手県側と宮城県側で転倒率に大きな差があり、震度階級だけでは倒れ方を予測できません。

墓石の転倒防止工事をすれば、地震で倒れなくなりますか。

倒れなくなるとは言えません。石渡明氏らの調査では、ボルトを埋め込みセメントや接着剤で固める転倒防止施工をした墓石や灯籠も、転倒率が10%を超えた墓地では多く倒れていました。論文は施工の効果を「転倒率を10%程度下げる」と見積もっています。施工の中身は、建てたときの石材店にご確認ください。

行政の地震被害想定では、墓石はどう扱われていますか。

被害の算定項目に墓石は含まれていません。静岡県の第4次地震被害想定で屋外の転倒物として数えられているのは、ブロック塀等の転倒・自動販売機の転倒・屋外落下物の3つです。磐田市の地域防災計画(令和7年度改訂)でも一般の墓石の記述は確認できませんでした。磐田市の想定最大震度は7です。

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Sources

出典・確認先

  1. 参考 石渡明・小栗尚樹・原田佳和「岩手・宮城内陸地震(2008)の墓石転倒率分布とその地質学的考察」『東北アジア研究』第13号1〜16ページ(東北大学東北アジア研究センター)

    2009年3月18日発行。墓地90か所を2008年6月24日〜7月5日のうち5日間で調査。大原公葬墓地73基中39基=53%、萩森霊園102基中53基=52%。棹石が完全に落下した場合のみを転倒と計数。転倒防止施工の効果は「転倒率を10%程度下げる」。同じ震度6強でも岩手県側と宮城県側で転倒率に大きな違い。2026年8月確認

  2. 参考 静岡県「第4次地震被害想定(第一次報告)本編 第2編」

    2013年6月27日公表。レベル2陸側ケースで磐田市の総面積162.6km2のうち137.5km2が震度7(市域の84.6%)。2026年8月確認

  3. 参考 静岡県「第4次地震被害想定(第一次報告)本編 第1編」

    被害想定項目一覧(15区分)を確認。屋外転倒・落下物として算定されるのはブロック塀等の転倒・自動販売機転倒・屋外落下物の3つで、墓石の項目は無い。2026年8月確認

  4. 参考 内閣府 中央防災会議「南海トラフ巨大地震の被害想定 市町村別最大震度一覧」

    2025年3月31日公表。磐田市の最大震度は基本・陸側・東側・西側の全ケースで7。墓石に関する記述は確認できず。2026年8月確認

  5. 参考 磐田市「磐田市地域防災計画 震災対策編(令和7年度改訂)」

    「17 文化財等の耐震対策」に「彫像、石碑その他これらに類する文化的な物件」の所有者・管理者の努力義務の記載あり。一般の墓石に関する記述は確認できず。2026年8月確認

  6. 参考 一般社団法人日本石材産業協会「墓石工事契約等ガイドライン」

    2020年6月施行・2023年11月1日改訂、全24項目。契約書・見積書・請求・苦情処理などの取引ルールが対象で、耐震施工の数値基準は含まれない。2026年8月確認

制度・金額・期限は変わります。相続、税、登記にかかわる個別の判断は、税理士・司法書士などの専門家と菩提寺にご確認ください。 本記事は一般的な情報であり、特定の寺院・家・土地についての判断ではありません。

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この記事を書いた人

大石浩之(磐田市/不動産業)

富士ヶ丘サービス株式会社 代表取締役/宅地建物取引士

磐田市で実家じまい・相続・空き家の相談を受けています。菩提寺や墓の話は、家をどうするかの相談と必ず同じ場に出てきます。 その現場で見たこと・聞いたことを、判断できるところとできないところを分けて書いています。

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